プロバイオティクス

プロバイオティクス

プロバイオティクス

乳酸菌には整腸作用、抗変異原性、血中コレステロール低減作用などの生理機能があることが分かっていますが、このような乳酸菌の機能性を積極的に食品へ利用しようとする観点からプロバイオティクス(probiotics)という概念が生まれました。
このプロバイオティクスという用語はParker1)が抗生物質(antibiotics)に対して提案したものですが、その後、Fuller2)が「腸内微生物フローラのバランスを改善することにより宿主動物に有益な効果を与える生きた微生物」と定義しました。
プロバイオティクス乳酸菌として要求される特性と条件を表1および表2に示します。

 

表1 プロバイオティクスの特性3)

 

   1.食経験があり、安全性が十分に保証されている。
   2.科学的根拠に基づいて有効性が十分確認されている。
   3.酸および胆汁酸に耐性を有する。
   4.病原性菌に対し拮抗または排除作用を有する。
   5.発ガン物質または有害物質に対し拮抗作用を有する。
   6.有害物質産生微生物に対し、増殖および生物活性抑制作用を有する。

 

 

 

表2 プロバイオティクスの7つの条件4)

 

   1.安全性が十分に保証されていること。
   2.もともと腸内フローラの一員であること。
   3.胃液・胆汁などの酸に耐えて腸内に到達できること。
   4.腸内に付着し、増殖できること。
   5.人間に明らかに有効効果を発揮すること。
   6.食品などの形態で有効な菌数が維持できること。
   7.安価で容易に取り扱えること。

 

 

 

次に、発酵乳や乳酸菌飲料などの栄養生理機能に関わる要因をみてみると、①基質となる乳組成分、②含まれる乳酸菌の細胞壁、細胞質、酵素などの菌体構成成分、③乳酸などの有機酸のほか、乳酸菌により産生される多糖類、抗菌物質などの代謝産物、④消化管内において乳酸菌および産生酵素により生成する物質の4つの要因があげられます(表3)。

 

表3 発酵乳・乳酸菌飲料の栄養生理機能に関わる要因3)

要 因 成 分
乳組成成分

タンパク質、炭水化物(乳糖)、脂質、ビタミン、ミネラル
など

乳酸菌の菌体構成成分 ペプチドグリカン、タイコ酸、多糖類、核酸、β-ガラクトシダーゼ、プロテアーゼ、タンパク質、炭水化物、脂質、ミネラルなど

乳酸菌により産生される代謝産物

乳酸、有機酸、バクテリオシン、抗菌物質、オリゴ糖、ペプチド類、葉酸、香味成分(アセトアルデヒド、ジアセチル)、多糖類など

生きた乳酸菌およびその酵素が消化管内容物に作用し生成する物質

乳酸菌生菌体、酵素、食物成分などの分解物および代謝物
(高分子/低分子物質、水溶性/油溶性物質)

Salminenら5)は、宿主に保健効果を示す生きた微生物、またはそれを含む食品を摂取することもプロバイオティクスに含まれるとした定義を提唱しています。この定義はプロバイオティクスの安全性と機能性を菌株レベルで科学的に検証する必要性を述べており、ヒト試験研究を通じて解明された機能性表示が求められることを示唆しています6)
 一方、Gibson & Roberfroid7)は「腸内に生息する有用菌に選択的に働き、増殖を促進したりその活性を高めることによって宿主の健康に有利に作用する物質」をプレバイオティクス(prebiotics)と定義しました。オリゴ糖などの難消化性物質がこれに該当します。
 また、プロバイオティクスとプレバイオティクスの両者を組み合わせた食品をシンバイオティクス(synbiotics)といい、プロバイオティクス乳酸菌とオリゴ糖を併用した発酵乳などがこれに相当します。
 さらに、光岡8)は「腸内フローラを介することなく、直接、生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御などに働く食品成分」をバイオジェニックス(biogenics)と呼ぶことを提案しています。バイオジェニックスには生理活性ペプチドのCPP(カゼインホスホペプチド)、多機能ホエータンパク質のラクトフェリン、多価不飽和脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)などが該当します。
乳酸菌あるいは発酵乳・乳酸菌飲料のプロバイオティクス効果としてこれまで報告されている生理機能には次のようなものがあります(表4)2-10)。

 

表4 乳酸菌のプロバイオティクス効果

 

1.栄養成分の消化吸収促進
乳糖不耐症の軽減、タンパク質の吸収促進、カルシウムの吸収促進、ビタミンの産生と吸収
2.整腸作用
結腸運動の促進、下痢の改善、便秘の改善
3.腸内有害菌・病原菌の抑制
腸内腐敗物質の生成抑制、発ガン物質の生成抑制
4.抗変異原性および抗腫瘍効果
変異原物質に対する抗変異原性、変異原物質との結合、糞便中の変異原物質量減少、腫瘍細胞の増殖抑制
5.血清コレステロール低下作用
乳酸菌体へのコレステロール吸着、脱抱合作用による胆汁酸の再吸収抑制、胆汁酸の酸化、乳酸菌によるコレステロール吸収
6.免疫調節作用
液性免疫の増強、感染予防効果、ロタウィルス・ピロリ菌・大腸菌O157の感染防御、細胞性免疫の活性化、アレルギー抑制、Th1/Th2バランスの増加
7.血圧低下作用
アンギオテンシンⅠ変換酵素の阻害

 

わが国においては平成3 年に特定保健用食品制度が導入され、消費者庁の許可を受けた食品はその摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示および下記マークが使用できるようになりました11)。現在、特定保健用食品許可(承認)品目は、令和5年6月23日現在1,055品目で、乳酸菌類を含む食品は「おなかの調子を整える食品」のみで許可されており、「生きたまま腸内に到達し、腸内環境を改善しておなかの調子を整えます」といった表示がなされています。これまでに表示を許可された食品に使用されている乳酸菌の種類はLactobacillus属(新属名のLacticaseibacillus属を含む)とBifidobacterium属です。

図1 特定保健用食品(トクホ)マーク
参考文献
1)R.B.Parker,Probiotics, the other half of the antibiotic story,Anim. Nutr. Health,
29, 4-8 (1974)
2)R.Fuller,Probiotics in man and animals,J. Appl. Bacteriol.,66, 365-378 (1989))
3)細野明義編,発酵乳の科学,アイ・ケイコーポレーション,川崎 (2002)
4)細野明義著,ヨーグルトの科学,八坂書房,東京 (2004)
5) S.Salminen, M.C.Bouley, M.C.Boutron-Rualt, J.Cummings, A.Franck, E.Isolauri,
M.C.Moreau, M.Roberfroid and I.Rowland,Functional food science and
gastrointestinal physiology and function, Br. J. Nutr., 80(Suppl.1), 147-171 (1998)
6) 辨野義己,プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能,モダンメディア,57, 277-187 (2011)
7) G.R.Gibson and M.B.Roberfroid,Dietary modulation of the human colonic microbiota:Introducing the concept of prebiotics,J. Nutr.,125, 1401-1412 (1995)
8) 光岡知足編,腸内フローラとプロバイオティクス,学会出版センター,東京 (1998)
9) 阿久澤良造、坂田亮一、島崎敬一、服部昭仁編著,乳肉卵の機能と利用(再販),アイ・ケイコーポレーション,川崎 (2007)
10) 日本乳酸菌学会編,乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス,京都大学学術出版会,京都(2010〉
11) 消費者庁ホームページ,特定保健用食品について