話題の乳酸菌飲料「ミキ」

2月3日は節分ですが、「にゅう(2)さん(3)」と読んで乳酸菌の日でもあります。この度、山陽リビングメディアから腸内環境を整える働きがあるといわれる乳酸菌を取り上げていただき、ちまたで話題となっている乳酸菌飲料「ミキ」の作り方や、乳酸菌の効用などについて、山陽新聞・OHKグループの生活情報誌「さりお(SALIO)」に掲載していただきました。
「ミキ」とは、サツマイモとお粥を乳酸発酵させて作られる飲み物で、奄美⼤島に古くから伝わるソウルフードです。手作り「ミキ」の作り方については、発酵研究家の吉田亜衣氏(倉敷市在住、吉田研究所代表)が上記の情報誌で詳細に説明しています1)。この奄美大島の「ミキ」と同様に、沖縄の宮古島一帯で飲み継がれている「みき」が、俳優の小雪さん出演のEテレ番組「小雪と発酵おばあちゃん」で紹介されていました2)
元来、「みき」とは、琉球王国時代から続く、伝統的なお米の「乳酸菌発酵飲料」で、元々は神様に祈りとともにお供えする「お酒」のことで、「みき」の名前の由来は「神酒(みき)」にあるといわれています。ただし、「みき」はアルコールではなく、ヘルシーな乳酸菌飲料といわれます。「みき」が米粉、麦麹、水で作られるのに対し、奄美の「ミキ」は米に生のサツマイモをすりおろして加えて発酵させたもので、宮古島一帯の「みき」に比べてとろみが少なく、ヨーグルトような酸味が特徴といわれています。
乳酸菌とは、牛乳などに含まれている糖類を食べて乳酸を作り出す細菌(Bacteria)の総称です。大きく分類すると、乳酸球菌、乳酸桿(かん)菌、ビフィズス菌の3種類です。さらに細かい分類では、乳酸菌はLactobacillales目に含まれることとなり、これまでに公表されている文献から、現在、5科(Lactobacillaceae、Aerococcaceae、Carnobacteriaceae、Enterococcaceae、Streptococcaceae)60属から構成されています。
また、穀物や野菜などから分離される植物性乳酸菌と、乳・乳製品などの動物性食品から分離される動物性乳酸菌が知られています。
世界中のさまざまな民族が、乳酸菌や酵母を用いたヨーグルトや発酵乳を伝統的に摂取し、その整腸作用を経験的に知っていました。最近の研究では、ビフィズス菌など善玉菌と、大腸菌など悪玉菌の関係、すなわち腸内フローラのバランスが人の健康を知る上で非常に重要なことが分かってきました。乳酸菌は、大腸菌など腸内腐敗菌の繁殖を抑えて腸内環境を整える役割を果たしています。便通を改善するだけでなく、腸内腐敗菌が作り出す有害物質や発がん物質の産生を抑えたり、免疫機能を高めたりするなどさまざまな働きがあります。また、長寿菌という別名を持つビフィズス菌は、人の腸内において最も多い代表的な善玉菌で、腸内環境を知るバロメーターになります(図1)。
乳酸菌は通過菌と呼ばれ、腸内にためておくことができません。大切なのは、生きた菌を毎日コツコツ体に取り込むことです。また、乳酸菌は酸(胃酸)や胆汁酸に弱い菌なので、胃の内部が中和した後である食後の摂取がおすすめです。一方、オリゴ糖や食物繊維は、乳酸菌の増殖や活性化を促すエサ(プレバイオティクス)として知られています。ヨーグルトや発酵乳を食べるとき一緒に、オリゴ糖や食物繊維を摂取することで、健康に有益な作用が期待できるでしょう。
ところで、先に述べました奄美の発酵飲料「ミキ」は、お粥を炊き、ある程度冷めたところで、すりおろしたサツマイモを加えて、室温で発酵することで製造されます。前理化学研究所特別招聘(しょうへい)研究員である辨野義己(べんのよしみ)博士の研究によると、「ミキ」には1mlあたり乳酸菌が約1億個ほども含まれていたそうです3)。この「ミキ」の発酵を主に担っていたのは、「ロイコノストック(Leuconostoc)」という乳酸菌で、すりおろしたサツマイモに常在していたものと考えられるという。これだけの乳酸菌の量はヨーグルトに匹敵するもので、「ミキ」は「お米のヨーグルト」といっても過言ではありません。久留らも奄美大島の伝統飲料「ミキ」から、ロイコノストック属細菌やラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)と呼ばれる乳酸球菌を分離しています4)。。「ロイコノストック」という乳酸菌はキムチや西欧のサワークラウトなどの漬け物の発酵に関与している有用な植物性の乳酸菌です。
辨野博士の調査によると、奄美に暮らす100歳を超える人のふん便から1gあたり10億個相当のビフィズス菌が見つかったといいます。図1に示されているように、 一般的に老年期の人の便にはビフィズス菌が1億個相当含まれるということから、「ミキ」の乳酸菌は腸内環境を良好に整え、ビフィズス菌を増やす助けとなり、奄美の人たちの健康長寿に貢献していると考えられます。

 

参考文献
1) 山陽リビングメディア,乳酸菌でおなかが整う,138号(2023.2.3),https://mrs.living.jp/okayama
2) 「小雪と発酵おばあちゃん」,沖縄みき(2022.12.1),https://www.nhk-ondemand.jp
3) 辨野義己,乳酸菌はヨーグルト並み!奄美の発酵飲料「ミキ」の効果が調査で判明,
特選街web編集部,2018-12-24
4) 久留ひろみ・玉置尚徳・和田浩二・伊藤清,奄美大島の伝統飲料「ミキ」中の乳酸菌,
日本醸造協会誌,105,741-748 (2010)